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大阪地方裁判所 昭和45年(行ウ)20号 判決 1973年11月27日

大阪市南区河原町一丁目一、五三七番地

原告

利源企業株式会社

右代表者代表取締役

劉道明

右訴訟代理人弁護士

大槻龍馬

谷村和治

大阪市南区高津七番丁二五番地

被告

南税務署長

北中善雄

右指定代理人検事

井上郁夫

同大蔵事務官

徳修

砂本寿夫

住永満

同法務事務官

田中晃

山口一郎

右当事者間の更正処分取消請求事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

一  被告が原告に対し昭和四〇年四月二〇日付でなした原告の昭和三八年四月一日から昭和三九年三月三一日までの事業年度の法人税について、所得金額を一八、五五三、六八七円(但し、審査請求に対する大阪国税局長の裁決によつて一部取消がなされた後のもの)とする更正のうち一五、五五三、六八七円を超える部分および重加算税一、三八一、二〇〇円(但し、右裁決により一部取消がなされた後のもの)とする賦課決定のうち右所得金額を基礎として算出した税額を超える部分は、いずれもこれを取消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  被告が原告に対し昭和四〇年四月二〇日付でなした原告の昭和三八年四月一日から昭和三九年三月三一日までの事業年度の法人税について、所得金額を一八、五五三、六八七円(但し、審査請求に対する大阪国税局長の裁決によつて一部取消がなされた後のもの)とする更正のうち一五、五五三、六八七円を超える部分および過少申告加算税七、三〇〇円、重加算税一、三八一、二〇〇円(但し、それぞれ右裁決により一部取消がなされた後のもの)とする各賦課決定のうち過少申告加算税については全額、重加算税については一、〇一一、六〇〇円を超える部分をいずれも取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

旨の判決

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

旨の判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は肩書住所地に本店を有し、各種自動販売機、電視器具の製造、販売、不動産の売買およびビルディング、共同住宅の賃貸、清涼飲料水の製造販売ならびに遊技場経営などを営むものであるが、昭和三九年五月二七日被告に対し、昭和三八年四月一日から昭和三九年三月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)の法人税につき所得金額七、二三九、六四〇円法人税額二、七〇五、〇八〇円として確定申告したところ、被告は昭和四〇年四月二〇日付で所得金額四一、六四〇、一二四円、法人税額一六、九八九、三〇〇円と更正し、過少申告加算税一七、二五〇円、重加算税四、一三九、七〇〇円とする賦課決定をなした。

2  原告は昭和四〇年五月二〇日付で右更正処分および賦課決定処分について大阪国税局長に対し審査請求をなしたところ、昭和四四年一二月一二日所得金額一八、五五三、六八七円、法人税額七、五〇八、四〇〇円、過少申告加算税七、三〇〇円、重加算税一、三八一、二〇〇円とする旨の裁決がなされ、昭和四五年一月二〇日右裁決書謄本の送達を受けた。

3  しかしながら、後述のとおり原告の本件年度の所得金額は一五、五五三、六八七円であり、被告のなした更正および賦課決定の各処分は請求の趣旨記載の限度を超える部分につきいずれも違法であるから、ここにその取消を求める。

二  請求の原因に対する被告の認否および主張

(認否)

1 請求の原因1、2の事実はいずれも認める。

2 同3については、次に主張するとおりである。

(主張)

1 原告の本件事業年度の所得金額は以下の(一)ないし(五)の合計額から(六)ないし(八)の合計額を控除した一八、五五三、六八七円であるから、本件更正処分は正当である。

(一) 申告所得金額 七、二三九、六四〇円

(二) 簿外利益金額 一〇、九七四、一九九円

(三) 賃貸収入金額 四八二、〇〇〇円

原告が本件事業年度末において預り金に計上している金額のうち、本件事業年度分の家賃として収入した金額

(四) 減価償却費の償却限度超過額 六、六〇〇円

固定資産の減価償却費のうち本件事業年度の償却範囲額を超える金額

(五) 貸付利息金額 九三九、六七一円

前記(二)の簿利益金額を原告の劉道明に対する貸付金と認定したことによる利息収入金額

(六) 減価償却費の損金算入額 六二三円

本件事業年度前の事業年度の所得の計算上損金に算入されなかつた固定資産の減価償却費のうち、本件事業年度において損害に算入される金額

(七) 受取利息のうち益金に算入されない金額二八〇、八〇〇円、受取利息金のうち、前年度に未収利息として計上されたにも拘らず、本件事業年度において重複して益金に算入された金額

(八) 未納事業税の損金算入額 八〇七、〇〇〇円

本件事業年度前の各事業年度の事業税のうち本件事業年度末までに損金に算入されていない金額

2 前記1(二)の簿外利益金額一〇、九七四、一九九円の算出過程は以下のとおりである。

(一) 原告会社代表者劉道明は原告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、本件事業年度において売上金の一部を除外し、その除外金員を帳簿に記載せずに近畿相互銀行難波支店などに原告会社代表者の個人名義、家族名義、架空人名義を用いて秘匿した。

(二) 右の結果原告会社の簿外資産と劉道明個人の資産が混然として両者を判別するのが不可能であるので、両者の売上除外による簿外の期末財産額から期首財産額を控除して算出した期中増加額のうち、劉道明個人の収入・支出として把握できるものを除いたものを原告の簿外利益として計算すると、別表のとおりである。

(三) 右別表の出資金項目の期末財産額のうちには、静境観光株式会社に対する李樹全名義の株式出資金一、〇〇〇、〇〇〇円および羅隆庚名義の株式出資金五〇〇、〇〇〇円(いずれも同社設立時の出資金)を含むが、右はいずれも、右各名義人が真実出資したものではなく、劉道明が出資したものである。

(四) 前記別表の仮払金項目について、劉道明の林正之助に対する仮払金一、五〇〇、〇〇〇円は昭和三九年一月一〇日ころ発生したものであつて期首には存在していなかつたのであるから、期首財産額は同別表のとおり一二、六三六、四三〇円が正当である。

3 前記1の(三)ないし(八)は、国税通則法六五条一項に定める過少申告加算税の、同(二)は同法六八条一項に定める重加算税のそれぞれ基礎となる金額であるから、右を基礎として過少申告加算税および重加算税を賦課した本件決定はいずれも正当である。

三  被告の主張に対する原告の認否および反論

(認否)

1 被告の主張1のうち(二)の金額中七、九七四、一九九円を超える部分は否認し、その余はすべて認める。

2 同2の(一)は認める。

同2の(二)のうち別表の出資金項目の期末財産額中一八、五〇〇、〇〇〇円を超える部分、期中増加額中八、三〇〇、〇〇〇円を超える部分、仮払金の期首財産額、期中増加額を否認し、その余は認める。(なお、右仮払金については、期首財産額は被告の主張金額のほか一、五〇〇、〇〇〇円があり、したがつて期中減少額は被告の主張金額より一、五〇〇、〇〇〇円多いことになる。)

同2の(三)のうち出資金の期末財産額のうちに、静境観光株式会社に対する李樹全名義の株式出資金一、〇〇〇、〇〇〇円および羅隆庚名義の株式出資金五〇〇、〇〇〇円を含むことは認めるが、その余は否認する。

同2の(四)のうち、劉道明が林正之助に対して一、五〇〇、〇〇〇円の仮払いをなしたことは認めるが、その余は否認する。

3 同3のうち過少申告加算税については全額、重加算税については一、〇一一、六〇〇円を超える部分を否認する。

(反論)

1 前記出資金のうち、李樹全名義の株式出資金一、〇〇〇、〇〇〇円および羅隆庚名義の株式出資金五〇〇、〇〇〇円はいずれも、李樹全が住友銀行道頓堀支店に普通預金および通知預金として預けていた合計約一、九〇〇、〇〇〇円のなかから、右両名が一、五〇〇、〇〇〇円を引き出したうえ、昭和三八年一一月一九日静境観光株式会社代表者劉道明に手渡し、真実出資したものである。

したがつて出資金の期中増加額は被告主張の九、八〇〇、〇〇〇円から右一、五〇〇、〇〇〇円を除いた八、三〇〇〇〇〇円である。

2 次に前記劉道明の林正之助に対する仮払金は、劉道明が、昭和三七年一〇月ころ林正之助より吉本土地建物株式会社の株券約一六、〇〇〇株を譲受けた見返りに同人に対して一、五〇〇、〇〇〇円の仮払いをなしたものであるから、右仮払金は本件事業年度の期首仮払金勘定に計上すべきである。

したがつて仮払金の期中減少額は被告主張の六、三二九、八三〇円に右一、五〇〇、〇〇〇円を加算した七、八二九、八三〇円である。

第三証拠

(原告)

一  甲第一ないし第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証、第一八号証の一、二、第一九、第二〇号証、第二一号証の一ないし三、第二二号証の一、二、第二三号証

二  証人羅隆庚、同謝阿親、同謝坤蘭、同岡田善治、同久保豊の各証言、原告代表者の供述

三  乙第一〇号証の一の成立は不知、その余の乙号各証の成立を認める。

(被告)

一 乙第一号証、第二号証の一ないし五、第三、第四号証、第五号証の一ないし四、第六、第七号証、第八号証の一ないし七、第九号証、第一〇号証の一ないし五

二 証人斉藤昭、同徳修の各証言

三 甲第五、第七、第一二、第二三各号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

第一請求原因について

請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

第二本件事業年度における原告の所得金額について

一  本件事業年度において、原告の確定申告にかかる所得七、二三九、六四〇円のほか、簿外利益七、九七四、一九九円(別表参照)、賃貸収入四八二、〇〇〇円、減価償却費の償却限度超過額六、六〇〇円、貸付利息金九三九、六七一円以上合計九、四〇二、四七〇円から、減価償却費の損金算入額六二三円、受取利息のうち益金に算入されない金額二八〇、八〇〇円、未納事業税の損金算入額八〇七、〇〇〇円以上合計一、〇八八、四二三円を除いた八、三〇四、〇四七円、総計一五、五五三、六八七円が存在することは当事者間に争いがない。

二  被告は、原告には右のほか簿外利益金として三、〇〇〇、〇〇〇円の所得があつたと主張するので、以下判断する。

1  原告会社代表者劉道明は原告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、本件事業年度において売上金の一部を除外し、その除外金員を帳簿に記載せずに近畿相互銀行難波支店などに原告会社代表者の個人名義、家族名義、架空人名義を用いて秘匿し、その結果、原告会社の簿外資産と劉道明個人の資産が混淆し、両者を判別することが不可能となつたことは当事者間に争いがなく、そのため両者の売上除外による簿外の期末財産額から期首財産額を控除して算出した期中増加額のうち、劉道明個人の収入・支出として把握できるものを除く、いわゆる財産増減法によつて原告の簿外利益を算出することについては両当事者とも異存がない。

2  右方法によつて原告の簿外利益を求めるに、前記のとおり、別表中出資金および仮払金項目の期中増加額のうちそれぞれ一、五〇〇、〇〇〇円を除きすべて当事者間に争いがないので、右についてそれぞれ判断する。

3  右別表の出資金項目の期末財産額のうちには、静境観光株式会社設立時の同社に対する李樹全名義の株式出資金一、〇〇〇、〇〇〇円および羅隆庚名義の株式出資金五〇〇、〇〇〇円を含むことは当事者間に争いがないが、被告は、右はいずれも劉道明が出資したものであるから期末財産額に計上すべきであると主張し、これに対して原告は右は各名義人が真実出資したものであるから期末財産額から除かれるべきであると主張する。

成立に争いのない甲第四号証、第六号証、第一四号証、第一五号証、第一八号証の一、二、第一九号証、第二一号証の一ないし三、乙第一号証、第二号証の一ないし五、第四号証の一部、第五号証の一の一部、第七号証、第八号証の二、五、第一〇号証の一ないし五、証人謝坤蘭の証言によつて真正に成立したと認められる甲第五号証、第七号証、第一二号証、証人久保豊の証言によつて真正に成立したと認められる甲第二三号証、証人羅隆庚、同謝阿親、同謝坤蘭、同岡田善治、同久保豊、同徳修の各証言、原告代表者の供述によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 劉道明の知人謝坤蘭はホテルの経営を目的とする会社の設立を思いたち、劉に協力を求めたところ、同人から、その代表取締役になることの承諾を得たので、同人とともに静境観光株式会社を設立することになり、ホテル建築の場所の選定その他設立準備手続は謝坤蘭が一切引き受けることにし、劉は主に資金面を担当することとなつた。

(二) 李樹全は、昭和三八年春劉より右会社へ出資するように勧誘を受けたので、同人に対し一、〇〇〇、〇〇〇円ないし一、五〇〇、〇〇〇円程度ならば出資してもよい旨答え、その際李の知人であり劉とも面識のある羅隆庚が近く台湾から来日する予定であるから、同人をも出資者に加えられたい旨述べた。その後同年八月二二日台湾へ帰国することになつたが、右会社は未だ設立の準備中で出資の段階に至つていなかつたので、帰国前、右出資金に充てるため、友人の謝阿親に一、五〇〇、〇〇〇円を預けて帰台することにした。右金員は、李が従前亜細製薬会社に代つて支払つた広告費五、〇〇〇ドル余につき、同会社製品の輸出を担当していた光洋貿易株式会社の岡田善治が同人のために住友銀行道頓堀支店に預金口座を設け、昭和三七年八月三一日九八二、二四三円、昭和三八年二月一三日九一五、四二二円をそれぞれ振込み支払つたものを、そのうち昭和三七年入金の全額を同年一一月二七日、昭和三八年入金中八〇〇、〇〇〇円を同年二月一三日、一一〇、〇〇〇円を同年三月一日それぞれ李が姚栄波を通じて引き出し、同人に貸付けていたところ、帰国前その返済を受けた金員の一部である。

(三) 李は帰台当日台北市において羅隆庚に前記会社へ出資するように勧誘するとともに、その出資金については前記謝阿親に預けた金員の一部を充てるように勧めたところ、羅は右出資をすることに応じ、昭和三八年八月二三日来日し、しばらくして謝阿親から前記一、五〇〇、〇〇〇円を受け取り、李、羅両名の右出資金に充てる趣旨でこれを劉に交付した。

(四) 昭和三八年一一月一九日前記会社は設立されたが、この資本金一〇、〇〇〇、〇〇〇円は劉が一部立替え、謝坤蘭が関西相互銀行庄内支店に払いこんだ。右立替金につき後日久保豊から一、五〇〇、〇〇〇円(三、〇〇〇株)、江藤明治から二〇〇、〇〇〇円(四〇〇株)、金沢民二から五〇〇、〇〇〇円(一、〇〇〇株)、明松麗子から五〇〇、〇〇〇円(一、〇〇〇株)謝坤蘭から二、五〇〇、〇〇〇円(同人名義四、〇〇〇株、謝信珠名義六〇〇株、小山元治名義四〇〇株)がそれぞれ劉に支払われた。

(五) 昭和三九年七月九日右会社は二〇、〇〇〇、〇〇〇円の増資をするに当り、その半額については株主に対し一対一の新株割当をすることとし、その際前記久保、江藤、金沢、明松は前記と同額の出資をし、李樹全は一、〇〇〇、〇〇〇円、羅隆庚は五〇〇、〇〇〇円それぞれ払込み手読をなした。

(六) 右会社は設立時、右増資時のいずれにも株券を発行せず、また出資の証しとなる。書類も株主に交付しなかつたが、原告が法人税法犯則の嫌疑で大阪国税局査察部の調査を受けるようになるや、劉道明の出資を明らかにするために、謝坤蘭は昭和三九年一一月一六日前記久保、江藤、金沢、明松ら実質株主に前記設立、増資時に出資した金額を記載した同会社代表取締役劉道明の記名押印のある預り証を交付するとともに、その領収金額を記載した書面を手許に保管することにしたが、その際李樹全に対し「昭和三八年一一月一九日一、〇〇〇、〇〇〇円、昭和三九年七月九日一、〇〇〇、〇〇〇円出資払込金として預り」の記載のある預り証を、羅隆庚に対し「昭和三八年一一月九日五〇〇、〇〇〇円、昭和三九年七月九日五〇〇、〇〇〇円出資払込金として預り」の記載のある預り証をそれぞれ受付した。

(七) 李樹全は昭和四五年に台湾へ帰国するため、従前有していた右会社の株式四、〇〇〇株を譲渡したい旨劉に伝えたところ、劉が右株式のうち一、〇〇〇株を、前記久保豊が三、〇〇〇株を譲り受けることとなり、久保は同年一〇月五日一、五〇〇、〇〇〇円で右株式を買い受けた。一方羅隆庚は昭和四二年ころ在留資格上社会活動の制限を受け、前記会社の株式の譲渡を余儀なくされ、劉に対しその譲渡方を依頼したところ、同人は同年九月二七日同人の妻劉林月雲名義で羅の所有する右株式二、〇〇〇株を一、〇〇〇、〇〇〇円で譲り受けた。

以上の認定事実によれば、前記静境観光株式会社設立時の同社に対する李樹全名義の株式資金一、〇〇〇、〇〇〇円および羅隆庚名義の株式出資金五〇〇、〇〇〇円はいずれも各名義人が真実出資したものであることが認められるから、別表の出資金の期末財産額は一八、五〇〇、〇〇〇円、したがつて出資金の期中増加額は八、三〇〇、〇〇〇円となる。

ところで、前顕乙第四号証の一部、第五号証の一によれば、劉道明は原告に対する法人税法犯則嫌疑事件について大阪国税局収税官斉藤昭より質問を受けた際(昭和三九年一〇月二〇日、同年一二月二日)、右李、羅名義の出資金は実際は劉道明個人が出資したものであると供述していることが認められる。しかしながら、前顕甲第四号証、第六号証、第一五号証、第一九号証、証人斉藤昭の証言、原告代表者の供述によれば、劉道明は、同人に対する法人税法違反被疑事件について昭和四〇年六月一六日大阪地方検察庁において取調べを受けた際、前記李、羅名義の出資金は右両名から預つていたものであるが、国税局においては「私が出した金とのみ聞かれたので」前記のように答えた旨供述したこと、国税局において質問を受けた当時、損益計算法によつて原告の所得を算出しようとされていたので、右出資者が重要な意味をもつものであることを意識しなかつたこと、右質問応答において増資の際の出資については李、羅ともに真実出資した旨供述しているのに、右質問者斉藤昭は設立時の出資と増資の折の出資の関係について深く追求することもなく、また李、羅両名の住所を聞きながら、同人らの供述を得ることをしなかつたこと、右両名は昭和四〇年六月二六日大阪地方検察庁においてそれぞれ各人が真実出資した旨供述していること、以上の事実が認められ、右認定事実によれば前顕乙第四号証、第五号証の一の劉道明の前記供述部分は当裁判所の採用するところではない。

4  次に別表の仮払金項目について、被告は劉道明の林正之助に対する仮払金一、五〇〇、〇〇〇円は昭和三九年一月一〇日ころ発生したものであるから、期首には存在していない旨主張し、原告は右仮払金は昭和三七年一〇月ころ発生したものであるから、本件事業年度の期首仮払金勘定に計上すべきである旨主張する。

成立に争いのない甲第一一号証、第一九号証、乙第三号証、第四号証、原告代表者の供述によれば、劉道明は第二次世界大戦の終る直前より林正之助と懇意にしていたが、昭和三七年ころより、同人が代表取締役である吉本興業株式会社の経営する映画館の業績が下降してきたのに伴い、同映画館の賃貸人であり右会社の系列に属する吉本土地建物株式会社の経営状態も悪化してきたので、同人の依頼で右両会社の再建に協力することとなり、右吉本土地建物株式会社の旧債務約七五、〇〇〇、〇〇〇円を立替返済する条件で右映画館の賃借権と営業権を譲受けたところ、同人は昭和三七年一〇月ころ吉本土地建物株式会社の株式一六、〇〇〇株昭和三八年秋ころ同株式二一、五〇〇株を劉に譲り渡しこれに対し劉は一、五〇〇、〇〇〇円を林に交付したことが認められる。

ところで右一、五〇〇、〇〇〇円を授受した時期について、前顕乙第三、第四号証によると、林正之助は昭和三九年一一月一九日原告に対する法人税法犯則嫌疑事件について前記斉藤昭より質問を受けた際、同年一月一〇日ころであつたと供述しており、また劉道明も同年一〇月二〇日斉藤昭の質問を受けて同年一月末ころであつた旨供述していることが認められる。しかしながら、林正之助は前記質問を受けた折、右一、五〇〇、〇〇〇円は劉が無償でもらうことはできないとして一株当り二〇〇円の割合で受取つてほしいと言つてその内入れとして持参した旨供述していることが右乙第三号証によつて明らかであり、一方、劉道明は当裁判所において、前記一六、〇〇〇株を譲り受けた後一週間程して劉道明個人および同人の妻劉林月雲名義に書き替えたが、無償でもらうわけにはいかないと思い、名義書替後一ヶ月足らずのうちに、一株一〇〇円位とみて一、五〇〇、〇〇〇円を林に渡した旨供述しているのであり、右のような謝礼の意であれば、一、五〇〇、〇〇〇円の交付は三七年一〇月ころ株式の譲与を受けた時期に近接した折になされると考えるのがより自然であろう。また前顕甲第一一号証によると、劉道明は昭和三九年一〇月七日に右斉藤昭より質問を受けた際には、交付は株式の名義を変更した昭和三七年中になした旨供述していることが認められ、右供述は、裁判所における劉道明の右供述とも一致する。以上の次第で、前記乙第三、第四号証(斉藤明に対する林正之助の昭和三九年一一月一九日の供述書および劉道明の同年一〇月二〇日の供述書)を採用して、一、五〇〇、〇〇〇円授受の時期を昭和三九年一月ころと断ずるのはいささか躊躇せざるをえない。

そして右の点につき他に格段の証拠もない本件においては、劉道明の林正之助に対する前記仮払いの時期は本件事業年度より前であるとするほかない。したがつて仮払金の本件事業年度の期首における総額は一四、一三六、四三〇円となり、期中減少額は七、八二九、八三〇円となる。

5  よつて被告の主張する簿外利益金三、〇〇〇、〇〇〇円はこれを認めることができないので、結局簿外利益金としては前記のとおり七、九七四、一九九円が存在するだけである。

三  以上のとおり本件事業年度における原告の所得は一五、五五三、六八七円である。

第三過少申告加算税および重加算税について

前叙のとおり、原告は簿外利益を除く所得について過少に申告したものであるから、本件過少申告加算税の賦課決定は正当であり、簿外利益について、原告において、故意に右利益金を隠ぺいしたものであるから前記説示の限度において重加算税を賦課されてもやむをえないものである。

第四結論

そうすると被告が原告に対し昭和四〇年四月二〇日付でなした本件事業年度の法人税についての更正のうち所得金額一五、五五三、六八七円を超える部分および重加算税の賦課決定のうち、右取消すべき所得金額に対応する部分はいずれも違法として取消を免れない。

よつて原告の本訴請求は右の限度において正当であるからこれを認容し、その余については理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 飯原一乗 裁判官門口正人は差支えにつき、署名捺印することが出来ない。裁判長裁判官 石川恭)

<省略>

△はマイナス ( )内は原告主張額

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